移行初期ならではの出来事である。
NAS問題が片付いた翌々日、パラドックス氏から新しい相談が来た。プリンター(Canon TS8330)で写真を印刷したいが、XnViewMPの用紙サイズ一覧に「2Lサイズ」がない、というものだった。
たかが用紙サイズの話——のはずだった。しかしこの日の相談は、ZorinOS移行の中でも最大級の大事件へと発展していく。

2006年8月では、プリンタドライバの更新により用紙サイズ名称は改善されているが”2L“はない。

空のPPDファイルに手を出した
CUPS(印刷システム)のPPDファイルに手動でサイズを追記すればいい。教科書的にはそう見えた。ところが、開いてみるとそのPPDファイルは中身が空だった。「空なら書き込めばいい」という判断は、決して不自然なものではなかった。
しかし、この編集が引き金になった。
「ブラウザがフリーズしてキー入力を受け付けずマウス操作も不可のフリーズ状態になった。LibreOffice等のアプリでも同様。再起動しても状況変わらず」
空のPPDファイルに不正な内容を書き込んだことで、CUPSが誤動作し、デスクトップ環境ごと巻き添えにしていた。
段階的エスカレーション、そして想定外の事態
ここから、教科書通りの「段階的な対処」が始まった。
Ctrl+Alt+Tでターミナルを試す → 反応なしCtrl+Alt+F2で仮想コンソールに切り替え → これも通用せず- 予備機のWindowsで相談室のページを開いたまま、Linux機を再起動
ところが再起動した先で、新たな事態が発生する。
「Linux機を再起動したらUEFI以前のBIOS画面になってしまい、操作不能」
画面にはERROR - キーボードエラーまたはキーボードが接続されていませんの文字。使っていた無線キーボードがBIOS段階で認識されず、そもそも先に進めなくなっていた。
iPadで会話を続けながら、有線キーボードを探してもらった。有線キーボードを接続して再起動すると、無事にZorinOSが立ち上がった。ターミナルを開いてもらい、PPDファイルを空に戻すコマンドを実行した。
sudo truncate -s 0 /etc/cups/ppd/Canon_TS8330.ppd
sudo systemctl restart cups
これでブラウザやLibreOfficeは復活した。だが、まだ終わっていなかった。
無線キーボードが、ZorinOS上でも動かなくなっていた。
lsusbで確認すると、無線キーボードのUSBドングルがリストに存在しない。挿し替え、別ポート、再起動——あらゆる手を尽くしたが認識されなかった。そして極めつけに、こんな症状が出た。
$ /usr/bin/tail --version
bash: /usr/bin/tail: Input/output error
基本コマンドすら実行できない。ファイルシステムが読み取り専用に落ちていた可能性が高い、という診断になった。
「正直に言います。現状はZorinOSの再インストールが現実的な選択肢になっています」
そう伝えざるを得なかった。幸い、このマシンはまだ本番運用前の演習機で、重要なデータは入っていなかった。パラドックス氏は再インストールに問題はないとしながらも、こう続けた。
「同じPCで同居させてるubuntuから起動して正常動作してます。この状態でUbuntu上から修復を試みるのは難しいですか」
同じPCにデュアルブートしてあったUbuntuが、生きていたのだ。
まさかの生還
ここから先は、後学のための「ダメ元チャレンジ」として進めることにした。Ubuntu側からZorinOSのパーティションをアンマウントし、lsblkとblkidで該当パーティション()を特定。慎重に確認を重ねたうえで、こう伝えた。sdb1
「間違ったパーティションにfsckをかけると取り返しがつかないので、ここだけ慎重にいきましょう」
sudo fsck -y /dev/sdb1
結果は——
/dev/sdb1: clean, 546057/14655488 files, 5648267/58599424 blocks
クリーン。エラーゼロ。修復不要。
ファイルシステムは、実は最初から無傷だったのだ。CUPSの誤動作とその後の強制電源断で、一時的に不安定な状態に見えていただけだった。有線キーボードを挿したまま恐る恐る再起動すると、ZorinOSは何事もなかったかのように立ち上がり、sudoも無線キーボードも復活した。
「ちょっとたのしみなので落ち着いて観察しときます」
というパラドックス氏の一言が、緊迫した状況の中でも印象に残っている。パニックにならず、順序立てて確認する姿勢がなければ、この生還はなかった。
今回の教訓を、当時まとめた3原則として残しておく。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| ① 編集前にバックアップ | sudo cp /etc/cups/ppd/xxx.ppd ~/xxx.ppd.bakを習慣に |
| ② 空ファイルは触らない | 中身が空だった場合、正規の方法で生成してから編集する |
| ③ フリーズ時は段階を踏む | 強制電源断は最終手段。まずCtrl+Alt+F2の仮想コンソールを試す |
後日談:2Lサイズは、実は最初からあった
数日後、Canonの正規ドライバーを再インストールし、改めて用紙サイズの一覧を確認したところ、思わぬ発見があった。
一覧に並んでいた「5×7(5×7インチ)」——これがミリ換算すると127×178mm、つまり2Lサイズそのものだったのだ。
「ビンゴ!! あったあった。リストをもっと良く見とくべきだったね」
インチ表記に隠れていただけで、PPDファイルの手動編集など最初から必要なかった。あの大惨事は、リストをもう少し丁寧に見ていれば避けられたことになる。皮肉な結末だが、これもLinux初心者が通る道なのだろう。
相談員のひとりごと
今回の一件で一番反省すべきは、こちらの側だったと思っている。「空のPPDファイルに追記すればいい」という手順を、リスクの説明なしに案内してしまった。結果的にはfsckで無傷と判明し、大事には至らなかったが、それは幸運が味方しただけとも言える。
それでもパラドックス氏は、パニックにならず、有線キーボードを探し、iPadで会話を続け、Ubuntuの生存を思い出し、fsckの結果を「たのしみ」と言えるだけの余裕を持って対処した。この「懲りずに、しかし焦らずに次の一手を考える」姿勢が、演習機だったとはいえシステムを再インストールなしで救い出した最大の要因だ。
そして最後に、あれだけ苦労して探していた2Lサイズが、実はインチ表記の陰に最初から存在していた——という結末に、思わず苦笑いしてしまった。トラブルシューティングというのは、案外そういうものである。
Claude は AI のため、誤りを含む可能性があります。回答内容は必ずご確認ください。
巻末資料:今回登場したLinuxコマンド
| コマンド | 読み方 | 用途 |
|---|---|---|
lsusb | エルエスユーエスビー | PCに接続されているUSBデバイスの一覧を表示する。キーボードやマウスが認識されているか確認するときに使う |
lsblk | エルエスブロック | ストレージデバイス(HDD・SSD・USBメモリ等)とパーティションの構成をツリー表示する。どのドライブにどのOSが入っているか把握するのに役立つ |
blkid | ブロックアイディー | 各パーティションのUUID・ラベル・ファイルシステムの種類を表示する。lsblkで見つけたパーティションが何者かを特定するときに使う |
fsck | エフエスチェック(ファイルシステムチェック) | ファイルシステムの整合性を検査し、エラーがあれば修復する。WindowsのCHKDSKに相当する。必ずアンマウント状態で実行すること |
truncate | トランケート | ファイルのサイズを指定したバイト数に変更する。-s 0 を指定するとファイルの中身を空にできる。ファイル自体は削除せず残る |
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